このページでは割礼について詳しく解説します。
割礼とは何?
割礼とは、生殖器の一部を切ったり、切り取る外科的な処置を施すことを言います。
男性の包茎手術が割礼として一般的に知られていますが、女性の生殖器を処置する場合も割礼として含まれます。
この場合は、女性割礼という言い方を用いることもあります。
割礼とは、生殖器の何を切るのか?
男性における割礼の場合
男性における割礼は、主に包皮の一部または全部を切除する施術が行われます。
余分な包皮を切除し、先端部分の亀頭を露出させることを包茎治療(包茎手術)と言います。
ごく一部の民族においては、睾丸を切除する割礼の儀式が行われています。
女性における割礼の場合
女性における割礼は、主にクリトリスを切除する施術が行われます。
ごく一部の民族においては、小陰唇や大陰唇の一部を切除する割礼が儀式的に行われます。
割礼の歴史
割礼の歴史は非常に古いですが、割礼がいつから行われるようになったのか、正確な記録はありません。
現在知られている古文書などによると、紀元前から割礼は行われていたようなので、4000年以上もの歴史があります。
そして割礼は、世界各地の文化・宗教・医療の歴史と深く結びついてきた歴史があります。
起源と古代の割礼
割礼の最古の記録
古代エジプトの壁画(約紀元前2400年頃)に割礼の場面が描かれており、これが世界最古の割礼の証拠と考えられています。
古代エジプトにおける割礼
割礼は成人男性や少年の通過儀礼として行われ、清潔・宗教的純潔・社会的地位の象徴とされました。
メソポタミアやアラビア半島における割礼
メソポタミアやアラビア半島における割礼は、遊牧民の間で感染症予防や衛生のために行われていた例がありますが、明確な資料はないようです。
割礼と宗教の関係
割礼は、宗教との関りが非常に大きいことが知られています。
この項目では、主な宗教と割礼の関係を解説します。
ユダヤ教における割礼
アブラハム契約における割礼
割礼は旧約聖書「創世記」に記され、神との契約の証として生後8日目に男子に割礼を行うことが定められました。
割礼の宗教的意義
割礼はユダヤ人アイデンティティの象徴であり、迫害やディアスポラの時代においても強固に割礼が守られました。
現代の割礼
ユダヤ人社会では依然として割礼(ブリット・ミラ)が行われています。
イスラム教における割礼
割礼はコーランに明記はないものの、預言者ムハンマドのスンナ(慣習)に基づき広く普及しました。
割礼の意味合い
割礼の意味とは、宗教的清浄、そして礼拝における清潔保持とされています。
割礼の行われる時期
幼児期から思春期までと地域によって差があり、エジプト・サウジアラビアでは幼少期、トルコでは思春期の通過儀礼として行われることが多いです。
キリスト教における割礼
初期キリスト教における割礼
初期のキリスト教は、ユダヤ教から分派したため、当初は割礼を重視する流れもありました。
パウロの教えによる割礼
外面的な割礼よりも「心の割礼」を重視すべきとされ、肉体的割礼は不要という立場が広まりました。
中世以降における割礼
割礼はキリスト教徒の間では一般的には行われなくなりましたが、一部地域(エチオピア正教など)では割礼は存続しています。
ヨーロッパにおける割礼
ヨーロッパにおける割礼は、アフリカや中東に比べると普及率が低く、文化的にも特殊な位置づけにあります。
ただし、宗教・移民・医療的要因などが絡み合い、国ごとに状況が異なります。
割礼の歴史的背景
古代ローマ・ギリシャにおける割礼
割礼は「異民族(ユダヤ人やエジプト人)の習慣」とされ、ローマ帝国ではむしろ嫌悪されていました。
ギリシャの文化では裸体競技が重視されたため、割礼された陰茎は「不完全」と見なされることもありました。
中世以降における割礼
キリスト教が広まったヨーロッパでは「洗礼」が宗教的通過儀礼となり、割礼は不要とされました。
そのため、伝統的な割礼習慣はほぼ消滅しました。
割礼の宗教的要因
ユダヤ教徒における割礼
割礼(ブリット・ミラ)は宗教的義務であり、ヨーロッパのユダヤ人社会では今も必ず行われています。
イスラム教徒における割礼
トルコ系やアラブ系移民の増加により、フランス、ドイツ、イギリス、オランダ、北欧諸国などでイスラム教徒の割礼が日常的に行われています。
多くは少年期(5〜12歳)に行われます。結果として、ヨーロッパにおける割礼は ユダヤ教徒とイスラム教徒の宗教的慣習 に強く結びついています。
割礼の医療的・文化的要因
医療目的による割礼
割礼は、包茎や反復性亀頭包皮炎などの場合に、医学的な手術として行われます。
ただしアメリカの割礼のように、「衛生」「予防」目的で新生児割礼をルーティン化する慣習はほとんどありません。
割礼の文化的影響
一部の西ヨーロッパ都市部では、北米文化の影響で「清潔・見た目の美観」などから、割礼を希望する家庭もありますが、依然として例外的です。
割礼をめぐる論争
ヨーロッパでは近年、子どもの人権・身体の自己決定権の観点から、割礼をめぐる議論や法的問題が頻発しています。
ドイツ(2012年 ケルン判決)における割礼
医師がイスラム教徒の少年に行った割礼が「身体への傷害」に当たるとされ、一時的に合法性が揺らぎました。
その後、宗教的割礼を認める法律が制定されました。
北欧諸国(アイスランド、デンマーク、ノルウェー)における割礼
宗教的割礼を禁止しようとする市民運動が存在し、政治的議論になっています。
特に子どもに対する割礼を「児童虐待」とみなす声もあります。
イギリス・フランスにおける割礼
移民が多く存在するので、割礼も広く行われていますが、衛生や安全確保のために「医療機関でのみ実施すべき」とする割礼の規制が議論されています。
割礼率の傾向
ヨーロッパ全体の割礼率は 10%未満 とされ、多くの国では 1〜5% 程度です。
移民が多い国(フランス、イギリス、ドイツ、オランダ、スウェーデンなど)では、都市部に限れば、割礼は20〜30%に達する場合もあります。
東ヨーロッパ・南ヨーロッパ(ポーランド、イタリア、スペイン、ギリシャなど)では割礼率はさらに低く、ほぼ宗教的少数派に限られます。
南米における割礼
南米における割礼は、アフリカや中東のように強く根付いた伝統や宗教儀礼ではなく、むしろ まれ で限定的な習慣です。
ただし、地域ごとに異なる背景や歴史が存在します。
先住民社会における割礼
アマゾン流域やブラジル、ペルー、コロンビアなどの一部の先住民族の間で、割礼や亀頭の切開(subincision など)が成人儀礼として行われてきた記録があります。
これらの割礼は主に「男子の通過儀礼」として行われ、痛みに耐えることによって勇気や成熟を示す役割がありました。
ただし、全ての民族で割礼が行われていたわけではなく、むしろ少数派の習慣でした。
割礼の宗教的影響
南米はカトリックが支配的であり、カトリック教義には割礼の義務はありません。
そのため、ユダヤ教やイスラム教徒の移民(アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、ベネズエラなどに比較的大きなコミュニティがある)が、宗教的伝統として割礼を実施しています。
この場合、割礼は乳幼児期に宗教的儀式として行うのが一般的です。
医療的割礼
アメリカ合衆国とは異なり南米では 医療上の標準的な処置としての新生児割礼は普及していません。
割礼が行われる時は、包茎や繰り返す感染症などの医療的理由がある場合です。
また、一部の私立病院や富裕層の間で、アメリカの影響を受けて選択的に割礼が実施されることがあります。
ただし、割礼率は全体的に低く、国や地域によっては数%程度にとどまります。
公衆衛生と国際機関の立場における割礼
アフリカのように「HIV予防のための割礼推進プログラム」は南米ではほとんど行われていません。
南米諸国では、HIV感染の主な経路が異なる(男性間性交渉や注射薬使用が多い)ため、割礼による感染予防効果を重視する政策は採用されていません。
現代における割礼の傾向
全体的に割礼が行われるのは少数派です。
割礼は宗教的少数派や医療目的、あるいはごく一部の文化的伝統に限定されています。
一方で、グローバル化や北米文化の影響により、都市部の一部の家庭で「清潔」「審美的な理由」で割礼を選ぶ例も増えていますが、依然として例外的です。
アフリカにおける割礼
アフリカにおける割礼は、宗教・文化・通過儀礼・医療など、地域や民族ごとに多様な意味と実践が存在します。
割礼の歴史的背景
古代エジプトにおける割礼
紀元前2000年頃の壁画やミイラから、既に割礼が行われていたことが分かっています。主に宗教儀式や清潔の目的と考えられています。
サハラ以南のアフリカにおける割礼
多くの民族で「成人儀礼(イニシエーション)」の一環として割礼が導入されてきました。割礼を通じて「子ども」から「大人」へと社会的に認められる仕組みが存在します。
割礼の宗教的意味
イスラム教における割礼
北アフリカや東アフリカ(エジプト、スーダン、ソマリア、ケニアの沿岸部など)では、イスラム教の影響で男児の割礼が広く行われています。
多くの場合、割礼は乳幼児期から少年期に行われます。
キリスト教・伝統宗教における割礼
キリスト教地域でも伝統文化として割礼が残っているケースがあります。
たとえばエチオピア正教会では古代ユダヤ教の影響もあり、割礼が宗教的慣習として残っています。
割礼の社会・文化的意味
成人儀礼(イニシエーション)としての割礼
ケニアのカレンジン族、キクユ族、南アフリカのコサ族などでは、割礼は「男らしさ」「勇気」「共同体への参加」を象徴します。
割礼の前後で教育や訓練(戦士の心得、社会規範、性教育など)が行われる場合もあります。
集団儀式としての割礼
多くの民族では、複数の少年が同時期に割礼を受け、一緒に一定期間を過ごすことで「同世代集団(エイジセット)」が形成されます。
このような割礼は、その後の社会的ネットワークに大きな影響を持ちます。
割礼の医療・公衆衛生的側面
HIV予防としての割礼
WHO(世界保健機関)とUNAIDS(国際連合エイズ合同計画)は、男性割礼がHIV感染リスクを約60%減少させる、という研究結果を発表しています。
そのため、南部・東部アフリカ(ケニア、ウガンダ、タンザニア、南アフリカなど)では、公衆衛生プログラムとして医療的割礼が推進されています。
割礼における合併症の問題
割礼は伝統的な方法では衛生面の問題があり、出血・感染・死亡のリスクが指摘されています。
近年では、医療機関での安全な施術が奨励されています。
女性割礼(FGM)との関連
一部地域(エジプト、ソマリア、スーダン、エチオピア、マリなど)では、女性に対しても「割礼」と称される女性の性器切除が伝統的に行われています。
男性割礼とは本質的に異なり、女性の性的機能や健康を損なうものとして、女性割礼は国際的には強く禁止・廃絶が推進されています。
アジアにおける割礼
アジアにおける割礼は、地域や民族・宗教によって意味合いも普及率も大きく異なります。
世界の割礼文化を比較すると、アジアは「多様性が最も大きい地域」と言えます。
西アジア(中東地域)における割礼
西アジア(中東地域)は、宗教的要因が最も強い地域とされています。
イスラム教における割礼
男性割礼は義務あるいは強く推奨され、ほぼ全員が幼少期から思春期に割礼を行います。
トルコ、イラン、イラク、サウジアラビア、シリアなどイスラム圏では、割礼率はほぼ100%です。
ユダヤ教(イスラエル)における割礼
ユダヤ教であるイスラエルにおける割礼は、生後8日目に「ブリット・ミラ」として必ず行われます。
割礼の社会的意味
割礼は宗教儀式であると同時に、男子の成長や共同体への加入を象徴する文化的要素もあります。
南アジア(インド・パキスタン・バングラデシュなど)における割礼
イスラム教徒の割礼
パキスタンやバングラデシュでは人口の大半がイスラム教徒のため、割礼はほぼ普遍的に行われます。
ヒンドゥー教徒・シク教徒における割礼
ヒンドゥー教には割礼の伝統はなく、インドのヒンドゥー教徒はほとんど割礼を行いません。
シク教徒も割礼を行わないのが基本です。
インド国内における割礼
インドではイスラム教徒(約14%)は割礼を行うが、ヒンドゥー教徒の多数派は割礼を行わないため、宗教ごとに割礼習慣が大きく分かれています。
東南アジアにおける割礼
イスラム文化圏の割礼
インドネシア、マレーシア、ブルネイ、南フィリピン(ミンダナオ島のモロ族)などでは、イスラム教の影響で男児の割礼が広く行われています。
通常は幼児期から少年期に割礼が行われ、宗教儀礼としての側面が強いです。
仏教文化圏の割礼
タイ、ミャンマー、カンボジア、ラオスなど仏教国では割礼習慣は基本的にありません。
ただし、イスラム教徒の少数民族(タイ南部、ミャンマーのロヒンギャなど)では割礼は行われています。
フィリピンにおける割礼
フィリピンはキリスト教が多数派ですが、植民地時代の影響や「男子の通過儀礼」として割礼(現地では tuli と呼ぶ)が一般的に行われています。
これは世界的に珍しい例で、キリスト教国としては割礼率が非常に高いです。
東アジアにおける割礼
中国における割礼
漢民族には割礼の伝統はありません。
ただし、イスラム教徒(回族・ウイグル族など)は宗教的に割礼を行います。新疆ウイグル自治区などでは割礼は普遍的です。
韓国における割礼
韓国は、東アジア地域内では例外的に割礼率が非常に高く、20世紀後半には新生児・少年の割礼が一般化しました。
これはアメリカの影響(朝鮮戦争後、米軍・医療文化の流入)が大きな要因とされます。
1990年代には成人男性の7〜8割が割礼を受けていたとされますが、近年における割礼は減少傾向にあります。
日本における割礼
日本には古来から割礼の文化的伝統はなく、宗教的義務も存在しません。
医療的な理由(重度の包茎など)の場合や、美容・性的理由で希望する人に対して外科的に行われる程度です。
日本では割礼とは言わず、包茎治療または包茎手術として行われるのが一般的です。
日本における割礼については、下記の項目で詳しく解説しているので、そちらをご覧ください。
中央アジアにおける割礼
カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンなどでは、人口の大多数がイスラム教徒のため、割礼は一般的に行われています。
割礼の多くは少年期に宗教儀礼として行われ、親族や地域社会で割礼が祝福されることが多いです。
割礼の現代的・医療的視点
HIV予防としての割礼
アフリカほどではありませんが、WHO(世界保健機関)はアジアの一部地域(特にHIV感染率の高い場所)でも割礼の効果を指摘しています。
割礼の法的・倫理的議論
ヨーロッパに比べてアジアでは「児童の権利」との衝突はあまり強調されていませんが、韓国やフィリピンでは「医療上必要のない割礼を子どもに施すこと」について一部議論が始まっています。
オセアニアにおける割礼
オセアニアにおける割礼は、アフリカや中東ほど普遍的ではありませんが、先住民文化・宗教的移民・近代医療などが重なって、割礼は独特の歴史と意味を持っています。
オーストラリア先住民(アボリジニ)における割礼
伝統的儀礼の割礼
アボリジニ社会では、割礼は男子の成人儀礼の一部として行われてきました。
割礼は単なる包皮切除にとどまらず、場合によっては「サブインシジョン(尿道下側を切開する特殊な処置)」が行われる部族もありました。
これらの割礼は勇気・共同体参加・男性性を象徴する儀礼であり、血や痛みに耐えることが通過儀礼の核心とされました。
割礼の現代の状況
現在では多くのアボリジニ社会で伝統的な割礼は縮小していますが、一部地域ではまだ文化的に割礼が残っています。
ポリネシア・メラネシア・ミクロネシアの島嶼社会における割礼
通過儀礼としての割礼
サモア、フィジー、トンガ、パプアニューギニアなどでは、伝統的に少年の成長儀礼として割礼が行われる文化があります。
一部の島では、割礼を受けてはじめて成人男性として共同体に認められます。
割礼の方法と意味
割礼の多くは、10歳前後から思春期にかけて集団で行い、社会的連帯を強める役割があります。
割礼は宗教的というよりは文化的・社会的通過儀礼の色合いが強いです。
近代オーストラリア・ニュージーランド社会における割礼
医療的割礼の導入
19世紀末〜20世紀初頭、イギリスやアメリカの医療の影響を受け、オーストラリアやニュージーランドでも新生児割礼が普及しました。
割礼が普及した理由
当時は割礼が「清潔」「性病予防」「夜尿症や自慰防止に効果がある」と考えられていたためです。
割礼率の変化
1950〜1970年代には新生児割礼率が50〜70%に達した時期もありました。
しかし医学的根拠が弱いとされ、1980年代以降は急速に割礼は減少しました。
現在は10〜20%程度にまで割礼は低下しています。ただし地域差はあります。
割礼の宗教的影響(移民社会)
オセアニア諸国には、ユダヤ教徒・イスラム教徒の移民も多く、これら教徒は宗教的伝統として割礼を行っています。
特にオーストラリアやニュージーランドの都市部(シドニー、メルボルン、オークランドなど)では、宗教的割礼が一定数見られます。
割礼の公衆衛生的側面
WHO(世界保健機関)は、アフリカでのHIV予防効果を根拠に男性割礼を推奨しましたが、オセアニアではHIV感染率が比較的低いため、公衆衛生政策としての割礼推進は行われていません。
ただし、医師による「清潔」「性感染症予防」「美容的理由」といった文脈で割礼を希望する家庭は存在します。
アメリカにおける割礼の歴史
アメリカにおける割礼の歴史は、世界の中でもかなり特異な発展をたどりました。
割礼は宗教儀礼ではなく、医学的・社会的な目的から広まり、現在も国民的に高い普及率を持つ数少ない先進国です。
植民地時代〜19世紀初頭の割礼
ヨーロッパからの移民社会(特にイギリス系)には割礼の文化はなく、植民地時代のアメリカでは割礼はほとんど行われていませんでした。
ユダヤ教徒や少数のイスラム教徒が宗教儀礼として割礼を行う程度でした。
19世紀半ば〜後半に医療として割礼の導入
19世紀後半、ビクトリア朝の性道徳と医学の影響を受け、アメリカでも割礼が注目されます。
医師たちが割礼を推奨した理由
自慰防止:当時「自慰は精神疾患・結核・癲癇などを引き起こす」と信じられており、割礼によって包皮を切除すれば自慰が減ると考えられていました。
衛生上の利点:包皮の下に垢が溜まりやすいため、割礼によって感染症予防になると信じられていました。
性病予防:割礼によって梅毒や淋病の感染リスクを下げることができると考えられていました。
この頃から、割礼は「道徳・衛生・医学」の意味ある処置として広まり始めました。
20世紀初頭〜中期における割礼の普及の拡大
第一次世界大戦・第二次世界大戦の割礼
米軍が兵士の衛生管理の一環として割礼を推奨。戦場での感染症予防の理由が強調されました。
そして戦後、帰還兵を通じて「割礼は清潔で望ましい」という考えが一般社会に浸透しました。
1950年代〜1960年代の割礼
アメリカでは新生児割礼が常識化し、病院で出生直後に習慣的に割礼が行われるようになりました。
この時代は、アメリカの新生児男子の7〜8割以上が割礼を受けるほど、非常に高い確率で割礼が行われました。
宗教とは無関係に、清潔・健康・常識として割礼が普及しました。
1970年代〜1990年代の割礼の医学的効果をめぐる論争
1970年代の割礼
小児科医や人権団体の一部が「不必要な外科手術」「人権侵害」として割礼を批判しました。
1980年代の割礼
AIDS(HIV感染症)の流行により、再び割礼の医学的効果が注目されました。
また、アフリカでの研究により、割礼がHIV感染リスクを下げることが示唆されました。
このため、アメリカ国内では賛否両論が強まりつつも、割礼は依然として高く支持されていました。
2000年代以降の割礼の国際的議論と現在
2007年における割礼
WHO(世界保健機関)とUNAIDS(国際連合エイズ合同計画)が、HIV感染率が高い地域(特にサハラ以南のアフリカ)での割礼を推奨しました。
アメリカ小児科学会(AAP)は、2012年に「割礼には健康上の利点がリスクを上回る」とする立場を表明しました。ただし義務化に関しては明言していません。
現在における割礼
現在のアメリカの割礼率は50〜60%程度(地域差あり:中西部・東部で高く、西海岸では低い)になっています。
宗教的というより「医療・文化的に根付いた習慣」として割礼が行われています。
欧州や日本などでは 習慣化された割礼が一般的ではないため、国際的に見るとアメリカは特殊な例と言えます。
なお、アメリカの包茎に対する考え方に関しては、別のページで詳しく解説しているので、そちらもご覧ください。
日本における割礼
古代〜江戸時代における割礼
日本では宗教儀礼としての割礼は行われてこなかったため、古代から江戸時代まで、割礼の風習はほとんど見られません。
神道や仏教の儀式には割礼は関係がなく、また東アジア(中国・韓国)にも伝統的な割礼文化は存在しないため、日本文化圏としてもその影響は受けていません。
明治〜大正時代における割礼
19世紀後半、日本が西洋化を進める過程で「西洋医学」の知識が導入されました。
この時に、割礼の概念も医学的処置の一つとして紹介されました。
当初は 「包茎手術=割礼」 として認識され、泌尿器科や外科医の一部が衛生・医療目的で実施するようになりました。
昭和時代における割礼
戦後、アメリカの影響が強まる中で、米国で一般的だった新生児割礼や衛生観念が日本にも紹介されました。
ただし日本では宗教的背景がないため、新生児に対して習慣的に割礼を行うことはなく、思春期以降の「包茎手術」としての割礼が普及しました。
1950〜70年代には、衛生・性行為・自慰などに関する雑誌や保健指導で「包茎は不衛生・恥ずかしい」とする言説が広がり、包茎手術=割礼が美容・衛生の一環として一般化しました。
平成以降における割礼
現代の日本では、宗教儀礼としての割礼は存在せず、ほぼすべてが「包茎治療」「美容外科手術」として行われています。
医学的には、真性包茎や排尿困難など明確な症状がある場合に保険適用されることがありますが、多くは自由診療(美容医療)の分野として包茎治療が行われます。
日本の割礼文化は「宗教儀礼」ではなく、「医療・美容」としての特殊な位置づけとなっています。
なお、日本の包茎に対する考え方については、別のページで詳しく解説しているので、そちらもご覧ください。
割礼についてまとめ
割礼について色々と調べみましたが、初めて知ることばかりでした。
割礼は単なる儀式や習慣ではなく、非常に意味のある外科的な施術であることが分かりました。
また国や地域、そして宗教の違いによる考え方の相違、時代の違いによる考え方の変化などがあることも分かりました。
この記事を読んだ人が、割礼について少しでも理解が深まることができれば幸いです。